Mar.2012

日本地図を見ると、下越から庄内にかけて弓の如くなだらかな海岸線が続いているように見えるが、実際に7号線を走ってみれば、さにあらず。浦ごとに、味のある奇岩、巨岩が日本海の荒波に洗われる景観に出会うことができる。特に村上付近、笹川流れと名付けられた海岸は誠によき風情これあり。

早春のある日、象潟に向かって旅していたボクと妻のさとみは、笹川流れの美しさに魅せられ、波を背景にサティろうということになった。「サティる」とは、「妻の全裸ヌード写真を撮る」という意味の隠語である。さとみのネット上の愛称「サティ」から派生した自動詞で、他に野外でサティるのに適した場所を意味するサティ場という名詞もある。


笹川流れ

笹川流れ付近の高い堤防を越えて岩礁を進むと、そこは国道からは完全に死角になるプライベート空間、素晴らしいサティ場だった。ボクたちは岩の上をあちこちと移動しながら、はしゃいで撮影し、最後に背より高く砕ける波を背景に入れてみようということになった。一眼レフと違って、当時使っていたコンパクトデジカメのシャッターは気絶するほど長いタイムラグがある。

さとみは全開ポーズ、シャッターは半押しのまま、ボクたちはじっと波の砕けるタイミングを計っていた。そのときである。背後の国道から「ぷっぷー♪」という軽やかなクラクションが聞こえた。



事故現場の撮影風景

振り向くとダンプカーが3台、路肩に停まっていた。トラックの車体は堤防より高く、運転席からは磯全体が見渡せていたのだ。最初にボクたちを見つけたらしい先頭のドライバーが、あまりにあられもないサティの姿を見かねたのか、クラクションを鳴らして、観客のいることを知らせてくれたようだ。それから手を振ってダンプを発進させた。後ろの2台もやはり運転席から合図を送りながら動きはじめる。

両腕を抱えるように胸を隠してしゃがみ込んでいたサティも仕方なしに手を振った。ボクはあまりのできごとに、現実逃避して目を点にしたまま呆然と立ち尽くしていた。

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