Mar.2012

アメリカ中西部に広がるプレーリー(大草原地帯)を走る国道は、どこまでもどこまでもどこまでもどこまでも真っ直ぐに続いていた。見渡す限りの地平線、草以外に見えるものと言えば、オイルウェルと呼ばれる小型の石油汲み上げ機だけである。シャベルカーくらいの大きさの稼動部を上下させる姿がコミカルで、ちょうど恐竜が首を振っているように見える。

かつてこの一帯がオイルラッシュに沸き、世界中から人が押し寄せて次々と億万長者が誕生したのも今は昔。オイルウェルたちはまるで、そんな往年を懐かしむかのように、ぽつんと一台、あるいは点々と、またところによっては密集して、こっくんこっくんと首を上げ下げしている。

道は相変わらず真っ直ぐに続いている。小さな起伏がたまにはあるが、道路は迂回する気などさらさらないらしく、きっぱり真っ直ぐ丘を越えて行く。助手席ではサティがぷーぷーと鼻提灯を膨らませている。

「わー、すっごい!360度の地平線だー。」

…などとはしゃいでいたのはほんの始めの5分だけ。凶悪なほど退屈な景色に飽きて、ばったり気絶するように眠ってしまった。できることならボクもアクセルに漬物石でも置いて寝たいくらいだ。やがてようやく一枚の看板が見えて来た。


「LOOSE BISON (バイソン放牧中)」

この春ボクたちはチェロキー族というネイティブアメリカンの史跡を訪ねてはるばるアメリカ中西部に行った。何を隠そう(笑)ボクの趣味は歴史探訪の旅なのである。サティはと言えば、十代の頃からやれだれだれの古戦場だとか、どこどこの貝塚だとかボクに付き合って巡っていたので、旅とはそういうものだと思い込んでいるフシがある。史跡に行けば、看板や博物館の説明を熟読するたちで、帰る頃にはボクより詳しくなっているのも常のことだ。

さて、予定していたチェロキーゆかりの地を訪ね終え、帰国まで丸一日の日程が余ったボクたちは、レンタカーも借りていることだし、天気もよさそうだから、どこかにドライブすることにした。滞在中、安宿の近くで毎日夕飯を食べに行ったバーのオヤジが言うことには、

「さあ、このヘンにゃあ見るものは何にもねえ。…バイソンくらいかな。」
「いいねえ、それ。」

…というわけで、暗いうちから街を出て教わった道をひたすら走ってきたのだ。

(続く)

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