2011/8

1. 宿を探す

2. ホテルノイス

3. オランダ横断

4. スキップビート

5. ヌーディストビーチ


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その日の夕方、ボクとサティはボンのメインストリートを歩いていた。「サティ」はまるで男の名前のようだが妻のさとみの愛称である。旅は三日目、ライン川沿いの国道を北上し、さとみの希望でベートーヴェンハウスを訪ねてボンにやってきた。明日の行き先も今夜の宿も決まっていない。

どうだい,昨日はライン川の二つ星ホテルでゼイタクしたことだし今日は節約しようか。安いモーテルを探して,スーパーのデリとビールでのんびりと部屋飲みなんてどう?

「さんせー!!」

さとみは節約という言葉が好きだ。異論はない。 それにボクらはモーテル探しの名人である。モーテルと言っても日本のように恋人たちのためのおしゃれな施設のことではなく,言葉そのまま,車で旅をする人たちのための宿である。いいモーテルが集まりやすい場所も,部屋のチェック方法もよく知っている。

ボンからケルンまでのインターを一つ一つ流出しては,高速と垂直方向に数キロを往復して,ホットなロケーションを探してゆく。 ところが少々様子が違う。辺りはどっぷり世界に名だたるルール工業地帯の真っ只中である。

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インターの周りは入り口から建物が見えないほど巨大な敷地の工場に囲まれ,少し離れて大住宅地がある構図が続く。 さとみはルール工業地帯の威容に興奮し,盛んに写真を撮りながらはしゃいでいるが,ボクはそろそろ「これはいけない」と考え始めていた。

とうとうケルンに入る直前のインターまで来てしまった。時間は6時近い。住宅街の外れにさびれた繁華街があって,労働者向けらしきみすぼらしい外観のビジネスホテルが2軒。イメージとはほど遠いが,サティをフロントに走らせた。

「朝食なしで110ユーロ(約15,400円)だって…。」

足元を見られている。あるいはお得意様相手のビジネスユースで,夕方に飛び込みの客が迷惑なのかもしれない。ここで言い値で泊まっては「旅名人さとシエ」の名がすたる。

「どうするの?」

サティが聞く。彼女は実務と行動力には長けているがクリエイティブな才には欠ける。いつも考えるのはボクの担当である。反面、ボクには原則性がない。方針を決めたあとは意思の塊のごとき妻の指揮下に入る。隊長兼一兵卒といったところである。

飛び込みはあきらめて予約サイトで探す。それもケルンで探せば下手をすると110ユーロより高いかもしれない。西に向かう方面ならどこでもいい。小さな町の名を片っ端から検索する。

スマホもポータブルWi-Fiも電池が乏しくなってきた。こんなこともあろうかと,日本からシガーライターの12Vから100V2口を取る変圧器を持って来ている。両方を変圧器と直結してWi-Fiの感度が少しでもいい場所に車を移動した。便利なことにボクたちが登録している予約サイトでは「今からでも今夜の予約できる宿」というカテゴリーがある。

「あった!ノイスっていう町に安いホテル。わー!朝食付き♪」

この状況にあっても妻に動じている様子はない。予約を終えて車を出した。

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ノイスってどこだ?

「今,ナビにホテルの住所を入れてるから待って。」

今度はシガーライターソケットをナビにつなぎ戻している。

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ホテルノイスには小1時間ほどで到着した。古いレンガ造りの堂々たるホテルだったが,泊り客は他に一人しかいないようだ。すでに7時を過ぎていて田舎町は静まりかえっている。

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さとみ、まずフロントで近くのスーパーを聞いて来い。

「それが…」

フロントには誰もいなかった。小さなホールの端に太っちょが座っている。それも只者の太っちょではない。140kgくらいの脂肪の塊である。椅子に座っているだけでハアハアと肩で息をしている。その彼が英語を流暢に話す。空港を除けば,今回出会ったドイツ人の中では,レンタカーのお姉さん,ホテルイビスのフロント係に次いで堂々第三位の英語力である。そしてびっくりするほど人がいい。

「ホテルのオーナーは今夜ここにいないんだ。ボクかい?ボクは彼女の友だちさ。頼まれてあなたたちを待っていたんだよ。」

そう言いながら,確かに部屋と玄関の鍵をボクたちに渡した。

「車で10分くらいのところにスーパーがあるけど,7時半で閉まってしまう。中心街まで行けば9時までやってるとこがあるけど…」

…道が混乱していて,とても初めての人が車で近づくのはムリだと「No one」を主語にして言う。

あははは。心配しないで,ボクは大丈夫。スーパーの場所を教えてくれないか。

愛すべき百貫デブはふーんと気合を入れて立ち上がり,喘ぎながら10歩ほど歩いて,入口にある市街地図の前に立った。

「スーパーはここ,でも,この辺りの道はほとんど一方通行で,しかもごちゃごちゃに交わっている。やはり,行くのはムリだよ。」

ボクは地図をざっと頭に入れて太っちょに握手を促した。

ありがとう。行ってくるよ。

彼はなおも心配そうに駐車場に急ぐボクたちを玄関で見送っている。

車に戻ったボクたちは,ナビにスーパーを検索させた。「南に1.8km」これが近くのスーパーだな。そして「北北東に4km」が中心街の方だ。一応,南に行ってみたが,もう入口の灯りが落とされ閉店の準備が始まっていた。それから中心街に向かった。

太っちょの言ったことは本当だった。ノイス中心街の道はほとんど垂直には交わらず,一方通行と通行止めだらけだった。まるで螺旋を描くように,ぐるぐる回りしてスーパーに到達したが,駐車できる場所を探すうちにスーパーも現在地も見失った。ナビの履歴に案内させると一度郊外に出て,大きな工場を迂回しながら再び螺旋にアプローチしていく。ほんの200メートルの場所に戻るのに10分くらいかかった。また店の前に駐車可能の場所が見当たらない。停まれないまま再びスーパーが見えなくなった。今度はナビの地図の場所を頼りに2ブロックちょいのところまで戻った。もはや一刻の猶予もない。サティにスーパーに行く道順を説明して走らせた。繁華街はほとんどシャッターが閉まり,帰路を急ぐ酔客がバス停に向かって歩いていく。夜道は危険なのでボクが行きたいところだったが停車中のこの場所にも一般車は見当たらない。もしかしたら進入禁止の場所かもしれないのだ。サティも運転は得意だがここで待つのはムリだ。仮に移動を求められたとしたら彼女では同じ場所には戻れない。

20分が過ぎた。スマホはポータブルWiFiでしか使えない。連絡方法はない。そろそろスーパーの閉店時刻である。車のそばのキヨスクもシャッターを下ろしている。まさか迷うことはないと思うが,車で探しに行ったらそれこそ決定的にはぐれてしまう。もしものとき,サティはホテルの名前を憶えているだろうか。

25分。車を置いて迎えに出よう。道が分からなくて困っているかもしれない。駐車違反に問われても致し方ない。ハザードを切り車を降りて施錠しようとしたとき,大きな紙袋を抱えた妻が角を曲がって現れた。

「もう何にもないのよ。閉店ぎりぎりまで探したんだけど,パンとハムだけ。それにグリーンサラダと,ほら,これはレバーペースト。いつかドイツのレバーペーストはおいしいって言ってたでしょ。これだけでい…」

ボクは妻を抱きしめた。異国の街角で妻と抱き合うことはなかなかない経験だろう。事情が飲み込めないサティも紙袋のパンが潰れないかと心配しながらとりあえずされるがままに抱かれていた。

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ホテルに戻るとホールはもう真っ暗だった。太っちょは心配に胸を痛めながらホテルを後にしたことだろう。薄暗い部屋の机で,スマホやカメラの充電をする配線にかこまれながら,ボクたちはぬるいビールの栓を開けて乾杯した。

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03t

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悪夢のようなスーパー買い出しから一夜が明け,ノイスにはまこと平穏な朝が来た。朝食が準備された部屋に降りて来たボクたちは思わず歓声をあげた。窓から差し込む朝の光,窓辺に赤い花,陶器のコーヒーポットからは湯気があがっている。試練は昨日まででおしまい。それは明るく穏やかな一日を予感させるような光景だった。

まだ顔を会わせていないこのホテルの女主人のセンスによるものだろうか。エレガントな白髪の老婦人を想像していたが全く違っていた。食事のときから廊下を行き来していたピンクのタンクトップにホットパンツ姿の若い女がその人であった。モップとバケツを担ぎ,リネンをまとめてくくった白い包みを足でドリブルしながら階段を下りて来て屈託ない笑顔で挨拶する。想像とは違っていたが想定内ではある。

困ったことには英語が全く話せない。 チェックアウトの際,「クレジットカードを処理する機械が壊れているので,支払いを現金でしてほしい」という彼女の頼みは何とかサティが理解した。だがボクにもひとつ彼女に頼みごとがあって,それがどうしても伝わらない。彼女はボクが何かクレームをつけているのだと誤解して困っている。仕方ないのでメモ帳とボールペンを借りた。メモを見るなり、彼女は破顔して何度も頷いた。

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貴女の友だちにありがとうと伝えて。

高速に乗ると,ノイスはもうデュッセルドルフ近郊であることに気付いた。ゆうべはボンから夢中で走ってきたが,ずいぶんの距離を来ていたものである。

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ここで初めて渋滞に遭った。

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行く手の走行車線にトラブルだと予感したので,中央分離帯ぎりぎりに寄せて後ろから来たパトカーを通した。

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果たして渋滞の原因は事故のようだ。

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ふだんならなかなかコンパクトカーでは走れない追い越し車線にちゃっかり出て行ったので10分ほどで抜けられた。

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30年前と違ってEU内の国境はまことあっけない。道路標識が変わっているので,いつの間にかオランダに入っていたことに気付いた。 行き先の地名がますます読めなくなった。

ゆうべ懲りたので,今回の旅ではもう節約モーテル探しはやめることにした。とりあえず今日は他に予定が何もないから,折り返し目的地のデルフトで泊まることになった。助手席のサティがホテル検索サイトへアクセスを始める。

「あったー♪デルフトの町の真ん中に,その名もグランドカナル!!」

これまでの経験からこの手の宿は老舗ホテルが近代化について行けず,潰れる寸前あるいは潰れてからようやくプライドを捨て,最低限の設備リフォームで,格安ホテルとして生き残ったパターンが多い。立地と味わいは最高,快適さには難ありだが,水回りだけは新しい。…まさにボクたちのためにあるような宿である。

オッケー,そこにする。

「あいあいさー♪」

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国境を超える前は工業地帯だったのが,オランダに入ったとたん美しい湖水地方の風景が両側に広がりどこまでも続いている。そしてボクは見た!高速の上をツルが大きな翼をザクザクと羽ばたかせて横切って行くのを…。助手席で寝とぼけていて見逃したさとみが疑いの目を向ける。ぜったいにサギやカモメなどではない。飛び方が違う。長い首を優雅に伸ばして羽を広げていた。美しいだんだら模様がまだ目に焼き付いている。

撮りに下りるか。 …だが,7Dもサンヨン(300mmの望遠レンズ)も持って来ていない。デルフトに宿を取ってしまったので時間も限られる。

「いいよ。鶴を探しに行ってみようよ。その代わりインター降りたら外にテラス席のあるカフェでランチね。でも…」

ちょっと待ってと,サティがガイドブックを見ながら言う。そもそもデルフトはフランクフルトの美術館で突然思い立った目的地である。予備知識は全くない。

「フェルメールの描いた「デルフト風景」は,デルフトにはないみたいよ。」

有名な「真珠の耳飾りの少女」とともにハーグのマウリッツハウス王立美術館に収蔵されているらしい。

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ハーグはデルフトの少し先にある大都市だが,確かに先に行って絵を見てから実景を尋ねるのが順路だろう。

「それからね…」

デルフト行きが決まってサティの周辺研究も進んでいる。

「ハーグの先に北海に面したスヘフェニンゲンっていうリゾートビーチがあるんだけど…。」

あははは。それはパスかな。北海は行ってみたいんだけど,リゾートビーチっていうのはどうもね…。興味ない。

「でも,そのリゾートには世界有数のヌーディストビーチがあるって書いてあるよ。」

な,何ぃー!!!!

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ぎゅぎゅーんと追い越し車線!!

「ちょ,ちょっとシエナ。ここはオランダだから,速度無制限じゃないよ。気を付けて!!」

サティる!

「え?」

今日中にその何とかニンゲンまで行く。

「ツルは?」

やめた。

「え,えー!?じゃ,マウリッツは…」

明日にする。やっぱり風景画は先に実景を見てからじっくりと作品鑑賞するのが王道だな。

「あららら。言ってることがさっきと180度違う。」

 でも約束通り,「お外でランチ」はするぞ。

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さ,好きなものを注文してくれ。

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「ぶー!ここ,パーキングの売店じゃない。」

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でも,ほら,オランダ料理っぽいぞ。

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うーん,うまそう♪はい,お待たせしました。 外のテーブルへどうぞ!!

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「こ,これどうやって食べるのかしら…」

あ,5分以内に食べてね。すぐ出発するから。

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「たいへんだー。がぶっ!!」

急遽,オランダを真っ二つに切り裂くように横断して北海へ急げ!!

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「KUWATA BAND」1986年のヒット曲「スキップ・ビート」…

腰を絡め すんげェ! 
Skipped Beat, Skipped Beat
Skipped Beat, Skipped Beat♪

曲名にもなっている「Skipped Beat」が誰の耳にも「スケベ!」に聞こえる。それもそのはず,英語に「Skipped Beat」などという言葉はなく,「スケベ!スケベ!」と連呼するために桑田さんが作った造語だというから驚く。他にも全編あまりに卑猥な歌詞なので,ふつうはとても口ずさんだりすることはできない。

オランダの高速を制限速度140kmいっぱいで西に走りながら,ついこの歌を歌ってしまって一人赤面する。なぜ「Skipped Beat」なのかと言うと,「スヘフェニンゲン(Scheveningen)はとても発音が難しいので,むしろ『スケベニンゲン』と言った方がオランダ語の発音に近くて通じ易い」などと,どう見ても眉唾の記事がガイドブックに書いてあったからだ。素人でも分かるが,スケベは全くオランダ語のScheveの発音には似ていない。オランダ人は観光客が単語を英語読みするのに寛容だと聞く。「スケヴェニンゲン」ならかろうじて通じるのかもしれない。街頭で道を聞くとき,このガイドブックを見ながらスケベな日本人が「スケベニンゲン」と連呼する姿を想像するとぞっとしない。

Skipped Beat, Skipped Beat♪

おっと,また口ずさんでしまった。「Skipped Beat」は完ぺきに「スケベ」である。ボクにやましい心のないでもない。高速の終点デン・ハーグが近づいてきた。

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車で新しい国に入ったときは,標識や独特の交通マナーを探るため,高速を郊外の町で下りて慣らした方がいい。が,今日は少々急いでいるので,いきなり大都市のど真ん中に突入である。やましき心の赴くまま,苦手な路面電車も何のその中心街を突破して海沿いのリゾートビーチに向かう。

スヘフェニンゲンは田舎のラスヴェガスという印象の町だった。リゾートホテルやカジノが建ち並び,ショッピングモールがどこまでも続く。たいへんな交通量と路駐である。もっとも路駐は合法らしく駐車スペースを探す車も多い。ナビの示す観光案内所に到着した。いつもなら妻を走らせるところだが,まさか

「ヌーディストビーチに行くにはどこに車を停めたらいいでしょうか。」

…なんて聞かせるわけにもゆくまい。と,思ったところが,さとみには全くもって屈託がない。

「聞いて来るね」

そう言うなり車を降りて走って行った。だが,その案内所は観光インフォメーションと言うより,どう見てもショッピングモールのサービスカウンターにしか見えない。案の定,誰ひとりとして単語以上の英語を解さなかったらしい。その上,どうやら妻の興味がビーチよりそのモールにある珍しいショップの数々に移りつつある。

こ,これはいかん!

海よりショッピングしよう!などということになったらタイヘンである。もはや猶予ならず。自分の才覚でアプローチするしかない。

市内には公共の立体駐車場があるはずだが,この様子では駐車待ちの列ができていることだろう。よしんばそれを待ってうまく駐車したとして,そこから目的のビーチまで歩けるのだろうか。ボクはWi-Fiで公式サイトからスマホにダウンロードした地図とグーグルマップ,それにナビの地図を見比べて考えた。

ヌーディストエリアはおよそ湘南海岸全域ほどもある大規模なビーチの南北の端に設定されている。現在地の中心街から近いのは北端の方だ。それに賑やかでリゾートムードもありそうだ。だが,不慣れな外国人がこの付近で駐車場をゲットするにはかなりの時間を覚悟せねばなるまい。

よし!南に賭けよう!!

3つの地図を駆使しながらいったん一般道に戻り,最も南のビーチにアプローチする。路駐の状況は変わらないがそろそろ夕方である。ビーチを後にする人たちと仕事が終わってアフター5にやって来る車が入れ替えの時間になってきた。帰りそうな車を見つけて声をかけ,首尾よく南端に近い駐車スペースを確保した。

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車で水着に着替えた。日除けはないので,代わりにバスタオルをたくさんかぶって浜に向かう人の流れについて行った。海外できまま旅をするときは水着とビーチサンダル,それに大きなバスタオルは必需品である。ビーチや温泉施設はもちろんのこと,泊まったホテルにプールやジャグジーがついていることもあるからだ。まだ4時過ぎなのに明らかに仕事帰りらしい地元ナンバーの車が多い。この国の人たちはいつ働いているのだろう。

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防風林を抜けてゆく。

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ビーチの入口にイラスト地図入りの案内板が立っていた。犬OKのマーク,海の家やトイレの場所,監視所に救護施設…そして端のビーチにだけ凡例にないマーク。間違いない。あそこだ。

いざ,行かん。ヨーロッパのリゾートビーチ体験!!

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まずは普通(笑)のエリアに入った。実際に海で泳ぐ人の姿はほとんどない。オシャレな海の家で,いかほどするのだろうかと恐る恐るビールとアイスコーヒーを注文してみた。…驚くほど安かった。特にビールはスーパーで売っているのとほとんど変わらない。

これはヨーロッパの町に共通なことである。誰もが気軽にカフェを利用する。カフェは路地の清掃やトイレの提供,道案内などを担っている。その代わりに道路にテーブルを並べて営業することが黙認されている。そしておそらく飲み物にかかる消費税が売店やスーパーより優遇されているのだろう。日本の感覚で節約しようと売店のコーラを買うとカフェより高かったりする。みんなが景観を守るために積極的にカフェを利用する。これが先進国の観光である。日本や中国から来る団体ツアー客たちはその流れの中にはいない。

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いぇーい♪

…隣の席のおばさんに写真を頼んだら,ポジションを変えながら20枚近くも激写してくれた。何だか古き良きヨーロッパ映画の中に入ったような気分だ。

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屈託なくリゾート気分を楽しむサティを横目にボクは鋭く浜の南を観察した。どうやら歩きづらい波打ち際を歩いていくと遠そうだ。

よし!行くぞ!!

「はーい。」

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妻はご機嫌,ハイネケンさまさまである。

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ビーチをいったん離れて舗装道をゆく。

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ここだ!!

ボクの目に狂いはない。この向こうにパラダイスが広がっているはずだ。

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浜に下りてすぐ,寄ってきた犬をついついあやしたために,飼い主のおじさんにつかまってしまった。ボクらと同じく,このおじさんも完全に犬にいかれてしまっている。

「ウチのボブと一緒に記念写真撮るかい。」

いやいや,全く以てノーサンキュー,ご辞退申し上げ…そ,そうですか?じゃ。

はい,チーズ。

おじさんに愛想笑いしながらもボクの目は遠くにある看板を捉えていた。

じゃじゃーん。

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看板から向こうがヌーディストエリアだ。

この看板は「この先にはナチュリスト(ヌーディスト)がいますので驚かないでね」と,告知するのが目的で,ヌーディスト以外がエリアに入っても全く問題はない。実際,波打ち際は水着どころかウエットスーツを着込んだカイトサーファーに占拠されていた。

エリアの中は当然のことながらアメリカの東海岸と同じく裸の老若男女がごろごろと寝転んでいた。…が,風景と全く違和感がない。ただ人々が裸で日光浴している。後ろから自転車をひいてきたほっぺにそばかすの10代の女の子が,目の前でくるくると着ているものを全部脱いだ。タオルを敷いて仰向けに寝転び文庫本を開く。

ボクらも大きなバスタオルで基地を作って水着を外した。さすがにアジア人は珍しいのだろう,少々注目を浴びている。日焼けしていないボクは白人たちよりむしろ色が白いのに陰毛の色だけが濃くて目立ってしまう。旅行中のサティはサティ的な都合上,その黒いものを落としているのでさらに目立ってしまう。テントの前にチェアーを並べている初老の夫婦がボクたちに手を振った。どっから来たの?ええ?ヤーパン?あなた,シャッターを押してあげたら…とか,ふつうのお人好し夫婦である。

ただ,…お互いまっ裸である。

さて次の関門は撮影である。ボクの一眼レフも広角レンズも巨大である。できるだけ他人に向けないように注意するしかない。それでも浜で妻を激写していれば決定的に注目を集めるだろう。全く巨大ではないがボクの股間もふだんと違う開放的位置にあり,さすがに少々じゃまになる。

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ええい!ままよ!

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みなビーチを楽しんでいるが海で泳ぐ人の姿はほとんどない。北海は真夏でも水温が低く海水浴には向かないらしい。

車まで戻ってきた。砂はさらさらしていてタオルで簡単に落ちた。これならシャワーを探さなくても宿まで行けそうだ。

次はどんな体験が待っているだろう。ボクたちのきまま旅は続く。


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